平成28年 7月  「乃至法界平等利益」



 私たちは、神仏に対して様々なお願いごとをいたします。病気平癒、商売繁盛、交通安全、試験合格、結婚、出産、就職成就など、人それぞれお願いごとも様々であります。一概には言えませんが、それは自分あるいは家族の身の上のことに限定されていることが多いのであります。

 

 平安時代、疫病が流行し、時の嵯峨天皇さまは大変御心を痛められました。嵯峨天皇さまは一字三礼の誠を尽くし般若心経をお写経され、疫病撲滅と民衆の救済を祈念されたのであります。また、弘法大師さまも各地において、人々の救済のために護摩の修法をされたりと、広く〝他〟の幸福を祈念されておられます。

 

 誤解を防ぐために申し添えますと、決して自分自身の願いごとを祈ることがよくないということではありません。自分や家族の健康、幸せを祈ることは、当然すぎるくらい当たり前の人情であり、尊いことであります。ここで申したいのは、自分の病気平癒を祈る時、同病で困っている人の平癒も祈るということ。我が家の幸福を祈る時、すべての人々の幸福も祈るということであります。

 

 真言宗の法会や儀式で読まれる願文や回向文などでは、どんなことを祈願する場合でも、最後に必ず「乃至法界平等利益(ないしほうかいびょうどうりやく)」という言葉を添えます。「そして、一切のものにも等しく利益が与えられますように」という意味の言葉であります。自分だけではなく、他のためにも祈る心こそ、大乗仏教や真言密教の精神といえるのであります。また、お勤めの終わりにお唱えする「願わくはこの功徳を以てあまねく一切に及ぼし我等と衆生と皆共に仏道を成ぜんことを」というのも、これと同じ心であります。

 

 仏前で手を合わせる時、あるいは写経される時、それぞれの願い事の次に「乃至法界平等利益」とお唱えするなり書き加えて頂いたらと思うのであります。